羽ばたき神泉

あこがれ視線 つまさき背のび

今週の3冊2404A

一週間に三冊くらい本を読めるといいな、という安易な思い付き。

偶然にも四月一週というのは、新しい試みを始めるのにちょうどいいような感じである。

 

さて、さっそく一冊目は、井伏鱒二「駅前旅館」。

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この作品の駅前旅館は、昭和は昭和でも30年代かそれより前のものだ。何せ、上野駅前のこの旅館に泊まる人々はスニーカーの代わりに下駄や草履、リュックサックの代わりに行李を使っている。ビジネスホテルも何もない時代である。道では番頭が呼び込みの腕前を競い、客を引き入れていたのだという。

 

しかしそれは、平成も中ごろ生まれの私が知る「駅前旅館」とは少し違う。地方の大きくもなく小さくもないくらいの駅の駅前通りに軒を連ねる和風二階建て木造、築おそらく数十年以上の建物。大きなガラス引き戸をくぐると広い土間。共用の水回り。風呂も家庭用のものが少し大きくなったくらいで、男女兼用だったりする。値段は素泊まり一泊だいたい3500円。予約は直接電話のみ。

高校生のころ、18きっぷを握りしめて東北などを周っていたとき、そんな時代に取り残されたような旅館に泊まったものだ。だいたい駅前すぐにあって、異常に安かった。昭和の名残りが好きという不思議な高校生だった私は、そんな雰囲気をどこか楽しんでいた。

今や地方の駅前に立つのは、風情も何もないビジネスホテル。どこへ行っても、東横イン、ルートイン、ドーミーインそしてスーパーホテルという変わらないラインナップである。前泊まった旅館も、コロナの数年間でご無沙汰した間に二度と泊まれなくなってしまった。昭和の香り漂う「駅前旅館」がなくなっていくのは、時代の定めなのか。

 

二冊目。木村克己「日本酒の教科書」。

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好きな酒は?と聞かれたら、日本酒とこたえる。正直私は、アルコールというものは元来が美味しくないものだと思っているが、日本酒は雰囲気で好きなのである。刺身をつまみながら冷酒を傾けて悦に入るのである。

前、60くらいのおじさんに、君は日本酒飲んでるのが似合うね、と言われたことがあるのが影響していることは否定できない。「東北の方の小料理屋でしっぽり飲んでそう」みたいなことを言われた。果たして褒め言葉であったのか微妙なところだが、確かに私は関西より東北や北海道に適性があると思う。何せ雪の降る地域が好きで、中学のころから北海道・東北を放浪し続けてきた。ついでに言うとうどんかそばなら圧倒的にそば派である。

そうやって東北、新潟、長野なんかを巡っていると地酒と縁が切れない。だから二十になるまでとても歯がゆい思いをしてきた。そんなこともあって日本酒派なのである。

 

三冊目は、石井幸孝「国鉄―『日本最大の企業』の栄光と崩壊」。

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昭和の雰囲気が好きだと書いた。少し不正確である。私の懐古趣味は、元をたどれば国鉄時代への憧憬から来ているのだ。あの鉄道ファンの少年二人の画像を見たことがないだろうか。「日本海」のラストランで、国鉄型への興奮を隠せないあの二人である。私はまさにあのような少年であった。彼らは幸運だった。「日本海」に乗ることができた。私も数年早く生まれていれば、と悔やんだものだ。

国鉄の中でも私が最も興味をひかれていたものは、北海道の廃線であった。高一の時、羽幌線、深名線を回ったのが私の北海道放浪の第一歩だった。北海道の廃線が何の役に立つのかと訝る人もいようが、それが高じて生まれた人間関係もあるのだから人生分からないものである。

という感じでこの本は興味深く読んだ。国鉄はなぜ解体されなければならなかったのか、JRはどのような体制で出発したのかなど、企業研究としても役に立ちそうだった。

 

以上がまあ今週、いやもう先週の三冊である。願わくば今週もいい本が三冊以上読めんことを。